ミコッテ風串焼き
ミコッテはムーンキーパーの伝統の串焼き料理。それがミコッテ風山の幸串焼である。
鉄の串に、ドードーの笹身とパプリカ、トマトを刺し焼いた後、塩をまぶして食べる。
シンプルでおいしい、冒険の共の料理である。
「トマトはルビートマトを使っているんだよー。
ここら辺だと、中央ラノシアにあるんだー」
もぐもぐと目の前で食べながら解説するのは、調理師の女性である。
「ルビートマト?この間のゼーメルトマトとは何が違うんですか?」
「ルビートマトはゼーメルトマトと比べて、あっさりしているんだよ。
煮込み料理には不向きだけど、こうして味付けして焼くならルビートマト!」
「あとは、手軽に手に入るしね」と、女性は言う。
感心する私に、女性はにこやかに微笑むと、もう二つ見せたい料理があると言う。
女性は、調理場へと戻ったと思えば、二つの皿を持って帰ってきた。
そして、そのうちの一つを私に差し出す。
「これは、キノコ?」
「そう。ボタンマッシュルームとアロエ、ルビートマトを同じく串焼きにした料理。
ミコッテ風森の幸串焼だよー」
差し出されるまま、私は一口食べる。
先ほどの山の幸串焼よりも、あっさりしているが、肉厚なマッシュルームを噛めば噛むほど、
旨味が表面の塩とブラックペッパーとに合わさって、おいしい。
ふんわりと、ラベンダーの芳醇な香りもする。
「で、こっちが、サンシーカー伝統の串焼き料理。
串に、アッシュトゥーナっていう魚の切り身を刺して、オリーブオイルで焼いたものに、
ミッドランドバジルとサンレモン、塩で味付けしたものだね!」
こちらは、レモンと塩でさっぱりとした味になっていた。
さらに、バジルの香りも相まって食欲をそそられる。これなら、何本でも食べられそうだ。
「魚も、臭みとかあるんだけど……」
女性も海の幸の串焼きを一つ取り、食べる。
「バジルとかは、そんな臭みを取ってくれるんだよね」
女性はハーブの瓶詰を「特別ね」と言って見せてくれた。
「これが、バジル。こっちは、タイム。あと、それがラベンダー」
瓶に詰められた、葉を見ても、いまいち、よくは分からなかった。
一つだけ、緑の中に黒の瓶を見つけて、「これは?」と尋ねる。
「それはブラックペッパー。コショウの実だよ」
ブラックペッパーの瓶をお借りして、まじまじとみる。
よく見ると、黒い粒が瓶の半分ほどに詰められていた。
「海辺のものも、陸のものも。今では簡単に手に入るから料理も作れるけど、
昔は大変だったんじゃないかな」
【調理品紀行録】ミコッテ風串焼
――一つ、また賢くなった瞬間だった。