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ナマズのワイン蒸

その日は、いつものお店に珍しいお客さんがいた。


「冒険者さん、ここのお料理はおいしいっぺな!
ところで、これなんて言うお料理だっぺ?」
「前に食べなかったっけ?『パパナッシュ』って言うんだよ」

 

ナマズが立ったような姿に、大きい鈴と前掛け。
 

「あ、いらっしゃい、記者さん」
「こんにちはだっぺなー」

 

「あ、あの料理人さん、この……ナマズは……?」
 

恐る恐る、本人の前だというのに聞いてみる。
冒険者、と呼ばれた料理人の女性は、苦笑しながらも答えてくれた。

 

「東方地域の種族……?でね。ナマズオ族っていうんだ」
「こっちに旅行に来たっぺな。ところで冒険者さん、記者ってなんだっぺ?」

 

ナマズオ族と呼ばれたナマズと、楽しそうに会話をする料理人さん。
しかし、ナマズか……ああ、そういえば。

 

「料理人さん、ナマズって食べられるんですかね」
「ぎょぎょ!」
「食べられるよー」

 

その言葉に、ナマズオ族は驚いたように、
 

「ぎょぎょぎょ!!おいらを食べるんだっぺか……?」
 

そう言ったが、女性は首を横に振った。
 

「ナマズオ族は食べないよ。
高地ラノシアや外地ラノシアで採れる、オオナマズを食べるんだー
スターアニスっていう香辛料と、ワインで臭みをとって、
ポポトを添えてある、とっても美味しい料理」

 

その言葉に、私は食べたいという欲に駆られた。
 

「それ、おいらも食べてみたいっぺな!」
「でも、オオナマズが……」

 

食べられないのか、と落ち込んでいると、このお店の店主である男性が帰ってきた。
 

「ただいま、おや、珍しい種族のお客さんだ」
「おかえりー。って、その手にあるのは……」
「ああ、これかい?新鮮なオオナマズだよ」

 

「さっき、安売りしててね」と言う言葉に、久しぶりに諸手を挙げて喜んだ。
今日のお昼ご飯は決まったようなものだ。

 

「では、この新鮮なオオナマズを調理開始したいと思いますー!」
 

火をかけた大鍋に、ワインとポポトを入れる。
ワインの量は、なんと瓶半本分。
その上に、中蓋を置きオオナマズを置く。
オオナマズには、スターアニスで軽く味を付けてあるらしい。
そして、ワイン側にはメープルシュガーを少々。
外蓋をして、弱火でワインを煮込みながら、オオナマズを蒸していく。

 

ちょうど、お昼に差し掛かり、お腹が減ってくる頃。
「できたよー」と言われて女性が持ってきたのは、
ふんわりと蒸しあがった、オオナマズに、
よくソースが染み込んだ、ポポトが添えられていた。

 

まずは、ポポト。
ホクホクとしたそれを一口食べるだけで、ソースのうまみがぎっしり詰まっていることが分かる。
さらに、一口オオナマズを食べると、
ちょっと甘くしたワインのソースが、あっさりとしたオオナマズの身によく合う。

 

「おいしいっぺなー!向こうでは、こんな料理食べられないっぺ!」
 

【調理品紀行録】ナマズのワイン蒸
 

 

「東方地域にも、おいしい料理いっぱいあるでしょう?」
「料理人さんの料理がそれだけおいしいってことですよ」

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